平成24年10月
在ラオス日本国大使館

  ラオスの医療事情

  1. 衛生・医療事情一般

    ラオスは熱帯モンスーン気候に属し、雨期(5月から10月)と乾期(11月から4月)に分かれます。一年の大部分は高温多湿で、4月が最も暑く最高気温が40℃以上になることがあります。雨期は日中蒸し暑くなりますが、明け方には涼しく感じる日もあり、気候や気温の変動により体調を崩しやすくなり注意が必要です。また、この時期は細菌が繁殖しやすい状況にあり、細菌性の食中毒に気をつけてください。例年雨期には蚊が媒介するデング熱が流行するため、蚊対策が重要となります。乾期のうち12月から2月上旬までは比較的涼しく、活動しやすい時期となりますが、3月から5月にかけては暑さが厳しくなります。

    当地の医療水準は低く、英語での意思疎通は困難な場合が多いです。邦人の多くはビエンチャン特別市内のCentre Médical de l’Ambassade de France(CMAF)やAlliance International Medical Centreなどの外国人がよく利用しているクリニックを利用しています(「5. 主な医療機関」参照)。ただし上記のクリニックでは可能な検査や治療は限られており入院施設がないため、入院や手術、精密検査が必要な場合や、産婦人科、耳鼻咽喉科、眼科など専門医の診察が必要な場合には、邦人の多くは国境を越えタイ東北部ノンカイまたはウドンタニ、さらにはバンコクの病院を受診しています。ラオスのほとんどの病院ではクレジットカードは取り扱っておらず、現金による支払いが必要です。また上記の(CMAF)など一部を除き、海外旅行保険の取り扱いは行っていません(タイでは多くの病院がクレジットカード、海外旅行保険の取り扱い可能)。ただし、ラオスで可能な治療診察行為は限られており、近隣諸国への搬送を考慮しなければならない場合があります。その際、高額な治療費や搬送費の請求、受診時に支払い能力を確認されることがありますので、不測の事態に備えて、十分な額の海外旅行保険に加入することをお勧めします。

    ビエンチャン特別市内に限れば上水道普及率は比較的高く、浄水場における水質もかなり改善されてきていますが、市内の配管や貯水槽の管理は未だ十分とは言えません。ビエンチャン特別市を含めたラオス国内全域において、飲用には、適切な浄水器を使用するか、市販のミネラル水の使用をお勧めします。但し、ミネラル水も品質の劣る製品が出回っているので注意が必要です。

    高級ホテルや外国人を顧客とする一部のレストランを除き、当地の食品衛生管理は信頼できないことが多いので十分に注意してください。食品のみならず、食器・調理器具の管理の不十分さから起こる感染もあります。衛生環境が整っていない場所での飲食は控えるようにしてください。

  2. かかり易い病気・怪我

    (1)感染性胃腸炎:原因としては細菌性、ウイルス性、寄生虫によるものと様々です。細菌性の場合、本邦でも頻度の高いサルモネラ(当地ではチフス菌を含む)、腸炎ビブリオ、大腸菌、カンピロバクターなどに加えて、細菌性赤痢、コレラなどへの感染の可能性があります。その他、ウイルスによる胃腸炎や、赤痢アメーバを始め、寄生虫感染の可能性もあります。これらは食事や飲み水、不潔な手指等より口から入ることにより感染します。①食事前やトイレの後は良く手を洗う、②生野菜は調理前によく洗浄する、③生もの、加熱の不十分なものは避ける、④衛生状態が悪そうな屋台や飲食店での飲食は避ける等、感染を防ぐため、食べ物、水、衛生状態に注意してください。治療は、下痢のみの場合、適切な水分摂取(電解質を含んだものが望ましい)を行い、脱水にならないように注意することが重要です。暑い中無理をすると、高度の脱水に陥り危険ですので、必ず休養をとってください。下痢止めの使用は最小限にとどめましょう。水分が摂れない、大量の下痢、血便や粘血便、持続する高熱、強い吐き気や腹痛等の症状がある場合には、必ず病院を受診してください。

    (2)デング熱:デングウイルスを保有している蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)に刺されることにより感染します。感染後1週間以内に38~40℃程度の発熱、激しい頭痛、関節痛、筋肉痛などの症状で発症し、発熱後期から解熱後に発疹が出現します。特別な治療薬がないために、治療は安静と対症療法になります。これらの症状は初感染の時は多くは自然に軽快、回復しますが、再感染の時に、出血傾向を伴うデング出血熱や血圧が下がりショック症状となるデングショック症候群に移行するなど重症化する傾向があり、この場合適切な治療を行わないと死に至ることがあるため要注意です。ワクチンや予防薬はなく、蚊に刺されないことが唯一の予防対策になります。

    (3)交通事故による怪我:近年、交通量の増加に伴い交通事故件数が激増、死亡事故も増加し、邦人が巻き込まれる場合もあります。交通規則やマナーが日本とは異なるところもありますので、被害に遭わないよう細心の注意を心がけてください。

    その他、頻度は低いものの、注意しなければならない疾患をいくつか挙げます。

    (4)マラリア:蚊(ハマダラカ)の刺咬によりマラリア原虫がヒトに感染して生ずる疾患で、悪寒戦慄を伴う熱発作、貧血、脾腫、倦怠感などの症状があります。米国疾病予防管理センター(CDC)は首都ビエンチャン特別市を除くラオス国内全域をマラリア流行地域に指定しています。特に山間部や南部メコン河流域地帯において、年間を通して患者が発生しています。マラリアには熱帯熱、三日熱、四日熱、卵形マラリアの4種類がありますが、ラオスでは熱帯熱マラリアが圧倒的に多く、迅速かつ適切な治療が施されないと重症化します。潜伏期間は熱帯熱マラリアで7-30日とされています。ビエンチャン特別市で生活する邦人はマラリア予防薬を飲んでいません。しかし地方においては、年々感染者は減少傾向にあるものの、依然マラリアへの注意を要します。当地ではクロロキン(chloroquine) およびメフロキン(mefloquine)耐性熱帯熱マラリアが報告されています。

    (5)日本脳炎:アジア地域に広く分布する日本脳炎ウイルスによる感染症です。蚊(コダカアカイエカなど)が媒介し、ウイルスに感染した豚の血液を吸った蚊に人が刺されて感染します。感染してもほとんどは無症状か軽度の発熱程度で経過しますが、100-1000人に1人の割合で重篤な脳炎を発症します。潜伏期間は7-15日間とされ、突然の高熱、頭痛、全身倦怠感などで発症し、その後意識障害や神経障害が出現するなど、後遺症を残すことがあります。脳炎を発症した場合死亡率が20-40%と高く、日本脳炎に対する特別な治療薬は存在しませんので、予防接種や蚊対策が重要とされています。

    (6)狂犬病:首都を含む国内全域において、狂犬病感染の危険があります。狂犬病ウイルスに感染した犬や猫等の動物に咬まれたり、舐められたりすることで感染し、発症した場合、ほぼ100%死亡します。人に感染した場合、潜伏期間は1-3ヶ月と長いのが特徴です。その後、発熱、食欲不振、傷口の痛みなどの前駆症状を認め、急性神経症状(のどの筋肉の痙攣)を呈し、最終的に昏睡状態に陥ります。当地では飼い犬への狂犬病予防接種が確実ではなく、また犬以外の動物からの感染の危険もありますので、無闇に動物に触らないことが重要です。咬まれた場合には、直ちに傷口をよく洗い、病院を受診しワクチン等の接種について相談してください。

    (7)ウイルス性肝炎:代表的なものとして、経口感染するA型と血液・体液を介して感染するB型があります。A型は上述の感染性胃腸炎と同様な対策が必要です。B型に関しては、当地は高感染地域であり、出血を伴うような医療行為(輸血や歯科治療を含む)などを受ける場合、注意が必要と考えられます。またカミソリ、歯ブラシ等を共有することで感染する場合があります。A型、B型肝炎ともワクチンがあります。

    (8)タイ肝吸虫症:調理不十分な淡水魚を食べることにより感染し、吸虫が胆管内に寄生します。この地域に高率に発生する胆管癌と関連があるとの報告もあります。淡水魚を食する際には、調理法に注意を払うことが重要です。

    (9)レプトスピラ症:病原性レプトスピラは牛、豚、ネズミなどの腎臓に定着し、感染した動物の尿や尿に汚染された水や土壌に接触することにより、または汚染された水や食物を飲食することにより感染します。症状は発熱、頭痛、筋肉痛、眼結膜の充血などがあり、風邪症状の軽症型から、黄疸、出血、腎不全を来す重症型があります。特に雨季に流行がみられます。予防としてむやみに水の中(水田、特に洪水の後など)には入らないことが重要です。

    (10)メコン住血吸虫症:川の中には皮膚から浸入する寄生虫が生息しています。ラオスでは南部地域(チャンパーサック県、コーン島周辺)で限局した発生が見られます。急性期には発熱、下痢、粘血便、血尿などが認められ、慢性期には肝硬変へと移行します。抗住血吸虫薬を用いた治療を行いますが、肝障害などの慢性例では対症療法となります。発生地域の水田、河川を素足で歩いたり、泳いだりする事は避ける方が良いでしょう。

    (11)高病原性鳥インフルエンザ:ラオスにおいても例年家禽への感染が認められ、過去には人への感染死亡例も発生しています。当地へ在住、旅行をされる方は常に最新の情報入手に努めるよう心掛けてください(「6. その他の医療情報入手先」参照)。

  3. 健康上心掛けること

    (1)熱中症:当地は高温多湿で熱中症の起こりやすい環境にあります。無理な行動、過度な運動を避け、十分な休息や頻回の水分を取るように努めてください。
    (2)毒蛇咬症:当地には毒蛇(コブラ類及びハブ・マムシ類)が生息しています。一般的な観光ルートで被害に遭うことは稀と考えますが、エコツアー参加時等においては十分な注意をしてください。
    (3)落雷:雨期には落雷がよく見られ、死亡事故も起きています。雲行きが怪しくなってきたら、たとえ雷の音が遠くに聞こえていても注意が必要です。建物や車中に避難して、高い木には決して近づかないでください。

  4. 予防接種

    (1) 赴任者に必要な予防接種(成人、小児)
    入国時に求められる予防接種はありませんが、当地では様々な感染症に罹患する可能性がありますので、以下の予防接種の実施が望まれます。
     成人:破傷風、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、麻しん(麻しんワクチンを今まで一度も受けたことがなく、かつ麻疹に未罹患の人)、腸チフス(日本では未承認)
    小児:日本の定期接種(BCG、DPT、ポリオ、麻しん、風しん、日本脳炎)の他、A型肝炎(日本では16歳以上承認)、B型肝炎、インフルエンザ菌b型(Hib)、狂犬病、腸チフス(日本では未承認)、長期滞在予定者は他に、流行性耳下腺炎、水痘、肺炎球菌
    (2) 現地の小児定期予防接種一覧
    ラオスの小児の定期予防接種

  5.   初回 2回目 3回目 4回目
    BCG 出生時      
    ポリオ(経口生ワクチン) 6週 10週 14週  
    DPT 6週 10週 14週  
    インフルエンザ菌b型(Hib:ヒブ) 6週 10週 14週  
    B型肝炎 出生時 6週 10週 14週
    麻疹 9ヶ月      
    邦人は各自、自主的に医療機関を受診して接種を受けることになります。
    *DPTは地元医療機関ではDPT-B型肝炎Hibの5種混合ワクチンを使用しています。
    (外国人がよく利用するクリニックではDPT-不活化ポリオ-Hibの5種またはDPT-不活化ポリオ-Hib-B型肝炎の6種混合ワクチンを使用しています)
    (3) 小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明書
    現地校・日本語補習校入学に関しては、予防接種記録・証明書は特段必要とされません。インターナショナルスクール入学に際しては、予防接種歴を求められることもありますが、接種証明書の提出は現時点では必須ではありません。

  6. 主な医療機関

  7. ◎ ビエンチャン特別市
    *(1)、(2)の施設を除き、英語での意思疎通が難しく、邦人が期待する水準の医療を受けるのは困難な場合が多いです。
    (1) Centre Médical de l’Ambassade de France (CMAF), (French Embassy Medical Center)   所在地:Kouvieng Road, Simuang, Vientiane、Kouvieng Road(クービエン通り)沿いグリーンパーク・ブティックホテル斜め向かいのフランス大使館所有グランドの一角、ただし入り口はクービエン通りの反対側の道路に面しています。赤い文字で書かれた看板がありますが、小さく見落とし易いので注意してください。
    電話・FAX:(021)-214150 (FAX共通)または (021)-215713
    緊急電話:(020)-56554794
    概要:邦人からフレンチクリニックと呼ばれ、外国人がよく利用しているクリニックです。日本語は不可ですが、英語・仏語で対応しています。入院施設やレントゲン設備はありませんが、入院・精査が必要と判断された場合には、タイの病院への紹介、必要に応じ救急車の手配を行ってくれます。診療時間は月~金(水曜日除く)は8:30~12:00、13:30~19:00、水曜日8:30~12:00、13:30~17:00、土曜日は9:00~12:00です。日曜日は休診ですが、夜間・休日の緊急時には医師が持つ緊急携帯電話に連絡するシステムになっています。小児の診療も可能で、予防接種、マラリアの診断、治療も行うことができます。歯科医師や理学療法士もいて、歯科や理学療法受診時は予約が必要です。支払い方法は基本的に現金払いで、クレジットカードは不可ですが、一部の海外旅行保険の取り扱いは可能です。

    (2)Alliance International Medical Centre
    所在地:Souphanouvong Road, Ban Wattayyaithong, Sikhottabong district, Vientiane、ワッタイ空港近くのホンダコンプレックス(ホンダ車販売サービス)敷地内にあります。
    電話:(021)-513095、Fax:(021)-513096
    概要:タイ・ウドンタニやノンカイにあるワッタナー病院が支援しているクリニックで、主に同病院医師が交代で来院し診察しています。英語での対応が可能です。総合医や内科の他、小児科、産婦人科、眼科などの医師が診察可能な日もあります。医師の診察日が変わるため、特に専門科医師受診を希望される場合には電話で確認をお勧めします。レントゲン設備はありますが入院施設はありません。入院や精査が必要な場合にはワッタナー病院などタイの病院へ紹介、必要に応じ救急車を手配してくれます。開院時間は月曜から金曜日まで8時から20時まで、土曜日が8時から17時まで、日曜日は休診です。VISA、Master、JCBなど一部のカードやBCELのキャッシュカード。が使用可。前もって相談すれば一部の海外旅行保険が使用できることもあり
    (3)Mahosot Hospital(および附属Intenational clinic)
    所在地:Fa Ngum Road, Kao Nyot, Sisattanak, Vientiane、 International clinic(インターナショナルクリニック)の建物はFa Ngum(ファグム)通り(メコン川沿い)に面し、救急室の建物はMahosot(マホソット)通りに面しています。
    電話:(021)-214022 (International Clinic)、(021)-214023(マホソット病院救急室) (021)-214018(マホソット病院代表)、 Fax :(021)-214020(International Clinic)
    概要:マホソット病院は救急室およびインターナショナルクリニックを開設しており、インターナショナルクリニックでは多少英語のわかるラオス人医師が診療を行っています(入院施設・レントゲン設備有り)。インターナショナルクリニックの診療時間は月曜から金曜の8時から12時、13時から16時で、それ以外はマホソット病院救急室対応となります。

    ○タイ国東北部地方
    (1)Nongkhai-Wattana General Hospital(ノンカイ・ワッタナ総合病院)
    所在地:1159/4 Moo 2, Prajak Rd., Nongkhai, Thailandメコン川友好橋近辺
    電話:+66-42-465201 (66はタイの国際電話国番号)
    FAX :+66-42-465210
    概要:ビエンチャン特別市内から最も近いタイ東北部の私立病院です。タイ・ラオス友好橋より、タイに入ると車で5分程度の場所にあります。規模は大きくないですが、入院施設があり、CT等の画像検査も可能です。当病院で対応できない場合には、ウドンタニやバンコクなどへ搬送されることがあります。緊急時には病院の救急車を有料で手配することが出来ます。歯科が併設されています。
    (2)Aek Udon International Hospital(エックウドン国際病院)
    所在地:555/5 Posri Rd., Amphur Muang Udonthani, Thailand ウドンタニ駅近辺
    電話: +66-42-342555, +66-81-9540954(英語対応)
    FAX : +66-42-341033
    概要:友好橋から車で約1時間程度の場所にあります。国際サービス部門(英語可)を有し、ラオス在留の邦人や外国人も利用しています。ある程度のレベルを有する総合病院ですが、さらに高度な治療が必要な場合には、バンコクやコンケンなどへ搬送されます。緊急時には病院の救急車を有料で手配することができます。歯科が併設されています。
    (3) Bangkok Hospital UDON(バンコク病院ウドン)
    所在地:111 Thong-yai Rd., Mak-khaeng Udonthani, Thailand ウドンタニ駅近辺
    電話: +66-42-343111
    FAX : +66-42-345061
    概要:2012年、ウドンタニのパンニャベート病院がタイ私立病院のバンコク病院グループとなり、名称がバンコク病院ウドンと変更されました。

  8. その他の医療情報入手先

  9. 在ラオス日本国大使館ホームページhttp://www.la.emb-japan.go.jp/jp/
    在ラオス日本大使館医務官室    +856-21-414400~3

  10. 現地語一口メモ


  11. 医師    タンモー
    飲み薬   ヤーキン
    注射    サックヤー
    頭痛    チェップ フア
    胸痛    チェップ ナー ウック
    腹痛    チェップ トーン
    下痢    トーク トーン
    発熱    ペン カイ
    吐気    プアット ハー(ク)
    傷     バー  マラリア  カイ ニュン
    デング熱  カイ ルアッ(ト) オック
    寄生虫   メ トーン
    具合が悪い  ボーサバーイ
    病院へ連れて行って欲しい ヤーク ハイ パー パイ ホンモー